1ページ (左上) DPI女性障害者ネットワークとは DPI女性障害者ネットワークは、国内の障害女性をつなぐ、ゆるやかなネットワーク組織です。障害女性の自立促進と優生保護法の撤廃を目指して1986年に発足しました。 優生保護法が優生条項を削除し、母体保護法に変わった1996年以降、一時活動を休止していましたが、2007年DPI世界会議、韓国大会で障害女性の世界的な連帯が求められたことをきっかけに、活動を再開しました。 現在は障害女性に関する法律や制度、施策のあり方をめぐる国内外の様々な課題に取り組み、情報発信をしています。 (右上) 写真:集会に集まる人々 (下) ロビー活動メンバー 藤原 久美子(視覚障害、難病)「障害女性の困難は、あらゆる困難の縮図です。私たちが住みよい社会は、誰もが生きやすい社会!!まず私たちの声を聴いてください!」 住田 理惠(知的障害、身体障害、視覚障害)「知的障害当事者として様々な活動をしてきました。しかし「難しいことは周りが考えてあげるから、考えなくても大丈夫だよ」「楽しい事だけやっていたらいいよ」と言われることがよくあります。知的障害者のための十分な情報が提供されないこともあります。知的障害者もこの社会にいます!」 伊是名 夏子(身体障害、難聴)「障害ある女性も、誰からもジャッジされることなく、自分の生き方、幸せは自分で決める!子どもを産むか、産まないか、働き方も、選べるようなサポートを」 南 由美子(難聴、シングルマザー)「自分自身の聴覚障害の経験から、障害があっても安心して子を産み育てられる社会を考えています」 2ページ (左上) 優生思想に基づく偏見や差別の根絶と障害のある女性のSRHRの確立を 2016審査で出された勧告が大きなきっかけとなり、2018年1月の優生保護法による強制不妊手術等への国家賠償請求訴訟につながり、2024年7月に最高裁で原告側の完全勝訴判決がでました。判決文にCEDAW勧告が引用されています! 現在、全面解決に向けた立法、補償の仕組みづくりがすすめられています。しかし日本には、現在も政府から独立した人権機関がありません。当事者を含む第三者委員が入った委員会での検証や、国としての総括も必要です。 そして、障害のある女性たち自身の、性的自己決定、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス・ライツを確立していくこともこの先の課題です。日本では、2003年に起きた、知的障害のある人たちの通う学校での性教育実践が、政治家のバッシングにあう事件が起きました。CRPDの勧告にも示されたインクルーシブ教育、包括的性教育の実施が不可欠です。 (右上) 私たちの声 障害をもつようになってから妊娠したとき、中絶を勧められた。(40代、視覚障害、難病) 子育てについて福祉の窓口に相談した。障害のない保護者と同様に子どもと一緒に公園等に行きたいという願いが理解されず、外出時の育児支援はいまだに得られていない。(30代、肢体障害) 「その足でどうやって産むの?」勇気を出して受診した不妊治療の初回、ひとりでは診察台にあがれない私を見て、女性の医師からそう言われた。(30代、肢体障害) 受診し、乳房痛など、身体状況を訴えたにもかかわらず、医療機関で妊娠を発見することができていなかった。女性は助けを得られないまま出産に到った。(20代、知的障害) (下) 私たちが求めること 優生保護法にもとづく強制的な不妊手術や子宮摘出手術を受けた被害者への補償を含む、全面解決に向けた立法、補償の仕組みをつくること。 全ての障害のある児童に対して、インクルーシブ教育を確保するために合理的配慮を保障すると共に包括的性教育を実施すること。 3ページ 強制不妊手術の被害者への新法通知、今なお課題 THE JAPAN TIMES 2024年10月9日 写真キャプション:旧優生保護法の下で強制不妊手術を受けた被害者に補償を行なう法案が全会一致で参議院で可決し、喜びを見せる優生手術の被害者(右から2人目)。8日火曜日/時事通信 8日、旧優生保護法下で強制不妊手術を受けた被害者に補償を行なう法律が国会で成立したが、被害者に対し1,500万円を支払うことなど、この新法について被害者たちに通知し、申請できるようにするには、まだ課題が残されている。 一時金法と呼ばれる類似の法律が2019年に成立しており、被害者に対し320万円を支払うとしている。だが、25,000件の不妊手術が優生保護法下で行われたとされているのに対し、8月末の時点での申請数はわずか1,129件にとどまっている。 一時金法は、プライバシー上の懸念を理由に、各被害者に一時金支払いの通知を行なう条項がない。上記の問題が起きているのもまさにそのためだ。被害者の中には、不妊手術のことを思い出したくないと言う人も、自分の過去について家族に話していないと言う人もいる。 新法の方は、各被害者への連絡を各都道府県に委ねるとしている。できる限り多くの被害者が、法律が発効する日から5年間の補償申請期間の間に申請ができるようにするねらいがある。 また新法は、旧優生保護法下で中絶手術を受けさせられた人に対しても補償を行なう。だが公的な記録や手術跡がないため、被害に遭った人たちを特定するのは難しいと見込まれる。全国の弁護士会はこれを受けて、被害者が申請書類を作成する支援をする制度を立ち上げることを計画している。 生命倫理を専門とする、立命館大学の松原洋子教授は「政府はワンストップ申請窓口を設置し、弁護士が補償申請を支援できるようにするべき」と語る。 また松原教授は、政府は各被害者の通知についての基準とガイドラインを定め、かかる問題を各都道府県に丸投げにするべきではないと述べた。 (記事和訳:真下) 4ページ (左上) 性暴力の根絶を DPI女女性ネットが行った複合差別実態調査の回答の中で一番多いのが「性的被害」の記述でした。 回答者87人の内31-35%が経験していました。 性犯罪・性暴力やDV被害は、社会的偏見が根強く、社会構造・環境に起因して発生します。被害者となった障害女性は、声を上げづらく、被害者であることの自覚も持ちにくい状況に置かれます。問題はうもれやすく、被害を訴える機会を逃してしまう傾向にあります。 障害女性は、経済的にも、生活的にも、自立が困難なことが多く、家族や施設などに頼らざるを得ないことからも、社会的に弱い立場に置かれます。 (右上) 私たちの声 20年前から断続的に、男性義肢装具士に、義足の採型の際に陰部周辺やおしりを触られる。嫌だけれど仕方がない。また、男性の義肢装具士に調整などで会う度に、「太った」「太り過ぎ」などと言われた。悲しい気持ち。(30代、肢体障害) 母の恋人から性的虐待を受けた。母の恋人が、私のお風呂介護をして胸等をさわられ、非常に辛い思いをした。母にその事を言うが、信じてもらえず最悪だった。(30歳代、肢体不自由) 写真:「障害のある女性たちの困難~複合差別って何?」主催者集合写真 (下) 私たちが求めること 複合差別に対応できる相談体制を整備すること たらい回しにしないワンストップ相談窓口を整備し、障害女性の複合差別を理解する支援者を養成し、障害女性のピア相談員の配置を促進すること。 今ある各地の性暴力被害者相談センターに、障害当事者のピア相談員を配置すること。 5ページ 意思に反した異性介助の撤廃を (左上) 意思に反した異性介助が、現在もなお、病院などの医療施設、障害者施設で続いています。 異性介助が当事者に苦痛を与えている場合は「性的虐待」と認識され、防止に向けた措置がなされるべきです。 写真:マイクアピールをする車いすユーザーの女性と、マイクを持つ介助者 (右上) 私たちの声 通所授産施設に通う送迎バスで、「乗り降りは自分で出来ます」と断っているのに、男性スタッフが毎日身体に触って介助を行った。(40歳代 精神・知的障害) 20年前から断続的に、男性義肢装具士に、義足の採型の際に陰部周辺やおしりを触られる。嫌だけれど仕方がない。また、男性の義肢装具士に調整などで会う度に、「太った」「太り過ぎ」などと言われた。悲しい気持ち。(30代、肢体障害) 入院先で日常的に異性介助が行われている。女性の入浴や排泄や夜勤時の介助は女性の従事者にして欲しいと希望を出しても、対応されなかった。男性の介助を受けることを了承しなければ介助をしないと言われた。(筋ジスプロジェクト女性ネット「異性介助に関するアンケート」より) 教員に服を脱ぐようにいわれ、教員の言うことなので従うしかなく、性行為の直前で他者に発見された。本人(障害のある女生徒)はおかしい、いやだと思ってはいたが、教員にいわれたことは従うように教えられてきたため、抵抗したり、助けを求める声をあげたりすることはできなかった。(10代、知的障害) (下) 私たちが求めること 意思に反した異性介助によって、嫌な思いや怖い思いをしたり、女性として性的な面で気にすることを尊重されず屈辱的な思いをしたりしている当事者が数多く存在していることを認識し、改善に向けて動いてください。 病院や施設などの閉ざされた空間で繰り返し行われていた、極めて卑劣な事件を、特殊な事案と捉えず、どこでも起こり得る、起こっていること捉え、解決に向けて動いてください。 6ページ 複合差別の撤廃を (左上) 障害女性の社会参画には壁があり、法律や制度も障害女性の複合差別について認識しているとは言えません。差別解消のための障害者ジェンダー統計も整えられる必要があります。 2022年国連障害者権利委員会対日審査後に出された総括所見は、多くの分野にわたり障害女性の複合差別解消について指摘しています。 写真:IDA事務局スタッフおよび藤原さん、浜島さん (右上) 私たちの声 出産後の職場復帰で正職からパートになり、夫の扶養に入ることを勧められた。半年後、同じ職場の健常女性が出産した時は正職のまま復帰できた。(40歳代 視覚障害 難病) 最初にかかった精神科で主治医に、「女性で良かったね。障害者になっても家族や配偶者に養ってもらえる」と言われた。女は働かない、家族が面倒を見るという考えは許せない(20歳代 精神障害) 「あなたはろう者で女性だから大学への就職はできない。研究所にしか就職先はない」と言われた。(年齢不明、聴覚障害) 新しい制度ができるとき、理解できるように情報を流してほしい。(30歳代 知的障害) (下) 私たちのもとめること CRPD勧告に従い、障害に関連する法政策においてジェンダー平等を促進し、ジェンダー平等の法政策に障害のある女性及び女児の権利を促進すること 障害女性に対する複合差別の課題を明らかにするために、国民生活基本調査、学校基本調査、障害者雇用促進法にもとづく統計等、障害者の暮らし、雇用、教育に関わる基本的な統計に、性別クロス集計を示すこと 当事者を含む第三者委員がはいった差別禁止のための、政府から独立した人権機関を設置すること 7ページ 障害者生活実態調査から(2008年)関連報告 (左上) グラフの説明:単身世帯の男性全体の年収を100 とすると、女性全体は66、障害男性は44、そして障害女性は22であった。 *「障害者生活実態調査」(※1)より 「仕事あり」と回答した人は、一般男性の約9割、一般女性の6割強、障害男性の4割強、障害女性の3割弱だった。わずかに実施された調査から見ても、障害者の中でも性別による格差は顕著である。就業率の低さと経済的困難は、障害女性が虐待や性的被害から逃れる妨げにもなっており、より立場の弱い障害女性への施策は急務である。 (右上) グラフ:単身世帯の年間収入 単位:万円 男性全体 409.4 女性全体 270.4 障害男性 181.4 障害女性 92.0 (典拠 勝又幸子他・2008年「障害者の所得保障と自立支援施策に関する調査研究」81頁 表18をもとに作成) 私たちが求めること 現状はわずかしかない、国や自治体の審議会や委員会、検討会等に障害のある女性の参画を確保し拡大し、エンパワメントを積極的に進めることが必要です。 差別解消のための統計を整えてください。 8ページ 参考資料 ■障害者権利委員会からの勧告(抜粋) 障害のある女子(第6条) (a)ジェンダー平等政策において、平等を確保し、障害のある女性及び女児に対する複合的かつ交差的な差別形態を防止するための効果的かつ具体的な措置を採用すること、及び障害に関する法政策にジェンダーの視点を主流化すること。 (b) 障害のある女性及び女児の全ての人権と基本的自由が等しく保護されることを確保すること、及びそれら措置の設計及び実施において効果的な参加を行うことを含め、障害のある女性及び女児の自律的な力を育成するための措置を講じること。 搾取、暴力及び虐待からの自由(第16条) 障害のある女児及び女性に対する性的暴力及び家庭内暴力に関する事実調査を実施し、障害のある児童及び女性に対するあらゆる形態の暴力に対処するための措置を強化すること。被害者が利用可能な苦情及び救済の仕組みに関する利用しやすい情報を提供すること。また、そのような行為が迅速に捜査され、加害者が起訴及び処罰され、被害者に救済策が提供されることを確保すること。 個人をそのままの状態で保護すること(第17条) (b) 障害のある女性への子宮摘出を含む強制不妊手術及び強制的な中絶を明示的に禁止すること、強制的な医療介入が有害な慣習であるという意識を向上させること、また、障害者の事情を知らされた上での同意があらゆる医療及び手術治療の前に行われるように確保すること。 健康(第25条) 施設及びサービス等の利用の容易さ(アクセシビリティ)基準の実施及び公的及び民間の保健提供者による合理的配慮の提供を確保することを含め、全ての障害者に質が高くジェンダーに配慮した保健サービスを確保すること。 統計及び資料の収集(第31条) 年齢、性別、機能障害の形態、必要とする支援の形態、性的指向及びジェンダー自認、社会経済的地位、民族、居住施設及び精神科病院を含む居住地といった様々な要因により分類された、あらゆる活動分野における障害者の資料収集システムを開発することを勧告する。 国内における実施及び監視(第33条) 条約の実施を監視するために、独立性、委員の障害の多様性及びジェンダー衡平の代表性を保障しながら障害者政策委員会の公的能力を強化することを勧告する。 (以下、印刷版では抜けていました。アナさんのテキストデータには足しています) (※1)勝又幸子・他、2008、『障害者の所得保障と自立支援施策に関する調査研究 平成17~19年度調査報告書・平成一九年度総括研究報告書』(厚生労働省科学研究費補助金障害保険福祉総合研究事業 以上