「判例研究2」:医療器具整備要求訴訟(名古屋地判2020年8月19日判時2478号24頁)検討  2022年11月20日 司会藤岡メモ   一 判決の検討    インクルーシブ教育の日本、日本の司法での理解が試された判決。  1 争点一覧    公立中学校ゆえ被告は自治体(行政機関)   争点1 差別解消法7条2項に基づく喀痰吸引器具を取得・維持等請求権の存否。   争点2 A 親が喀痰吸引器具の準備等の負担を原告子の登校条件としたこと       B 同器具と連絡票の持参を子の登校条件としたこと        は国賠法の違法か。   争点3 校外学習参加について親の付き添いを条件としたことが国賠法の違法か。   争点4 通学団への参加に親の付添がなくても可能なように学校が働きかけをしなかったことが国賠法の違法か。    争点5 学校が子に水泳授業を参加させなかったこと及び高学年用プールを使用しなかったことが違法か。   2 争点の仕分け     A 不当な差別的取扱型差別=分離型差別(法7条1項)      「障害を理由として、各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付けること」(基本方針) or       B 合理的配慮不提供型差別(法7条2項)か?   以下は司会の仕分け。担当弁護士の理解は?    争点1:B    争点2:A 争点3:A 争点4:A 争点5:A      違法性認定のハードルは一般的にはB(争点1)が高い。  二 インクルーシブ教育を受ける権利、同教育の実現こそが権利条約、障害者施策推進の中核的価値であることを裁判官が理解できたのか?     本件行政対応の条約適合性審査は適切に行われたのか。     2022年9月9日の権利委員会の日本への総括所見は今後本件のような事例に活かせるか?      (b) すべての障害児の普通学校への通学を保障し、普通学校が障害児の普通学校を拒否することを許さない「不登校」条項と方針を打ち出し、特殊学級関連の大臣告示を撤回すること。 (c) 障害のあるすべての子どもたちが、個々の教育的要求を満たし、インクルーシブ教育を確保するための合理的配慮を保証する。(機械翻訳) 三 争点1に関して、合理的配慮請求権について     判旨:差別解消法7条2項は,障害者に対して合理的配慮を行うことを公法上の義務として定めたものであって,個々の障害者に対して合理的配慮を求める請求権を付与する趣旨の規定ではない    会員相互議論のための論点提示  @ そもそも、例えば、弱視児の拡大読書器の取得・維持要求、移動障害児の車椅子の取得・維持要求等、個別の合理的配慮要求の請求権を法(差別解消法・憲法・雇用の分野での雇用促進法、その他の法含め)は障害児者に保障しているものと解されるのか?    従来の研究者の学説はどうなのか1? 会員諸氏の見解は2? 諸外国ではどうか?    仮に保障される場合があり得るとして、その実定法上の根拠、成立要件は?    高森レジメ2頁「こちらも差別解消法から直接請求したものではない」の意味。    合理的配慮をしないという不作為を違法と定めた=作為を求める権利があることを意味するのか?  A 判決は「公法上の義務として定めたものであって,」とのこと。「反射的利益論」的なことだろう。解消法は公法だが、公法上の義務規定等を根拠に、市民に一定の個別権利を認める場合はあり「公法上の義務だから」という理屈だけでは市民に権利がないとは言えない。 四 争点2B     百歩譲って、親に連絡票持参を学校が求めたとしても、仮に親に注意するとしても、それを忘れたら子の登校を認めないことは子の憲法上の学習権を侵害すると言えないか。 五 争点3 在籍児童の学習参加に親の付添を条件とすることが分離型差別に該らない、違法でないという理屈が理解できない。     判旨:保護者には子女に普通教育を受けさせる義務があること(憲法26条2項,教育基本法5条,学校教育法16条)からすれば,学校生活において医療的ケアが必要な児童生徒の保護者に対し,その医療的ケアの実施に必要な一定の助力を求めることも不合理ということはできない   こちらこそ、抽象的な公法上の義務を根拠として、保護者の医療的ケア提供義務を認定している。それを基に子の学習権を否定している。 六 「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(医療的ケア児支援法)が令和3年9月18日(名古屋高裁判決のあった9/3の直後)からが施行された。   10条2項 学校の設置者は、その設置する学校に在籍する医療的ケア児が保護者の付添いがなくても適切な医療的ケアその他の支援を受けられるようにするため、看護師等の配置その他の必要な措置を講ずるものとする。  藤岡はこの法施行の前後で、教育委員会との交渉における態度が変わったと感じる場面も経験しており、この法律施行後もこの結論は変わらないのかという疑問(期待)はある。  どうだろうか? 1 「Q&A 障害のある人に役立つ法律知識―よくある相談例と判例から考える―」(藤岡毅2021年日本法令)443頁「例えば、企業に雇用されている精神障害者が、「原告が障害者雇用促進法36条の3に基づき、事業者に対する合理的配慮措置として、原告が精神科病院に通院することが可能なように別紙記載の要領に適合する条件での勤務シフトで勤務する地位を確認する」判決を求めることは可能。 2 「障害法」(菊池馨実・中川純・川島聡編著・成文堂2015年)の長谷川聡・長谷川珠子執筆部分138頁「解消法と促進法から、私法上の効果が直接生じることは想定されていない。つまり、…合理的配慮の提供義務を定めた条文(解消法7条2項、8条2項、雇用促進法36条の2〜4)から合理的配慮の請求権を直接導くことは出来ない。」と言い切っている。 --------------- ------------------------------------------------------------ --------------- ------------------------------------------------------------ 1