障害法学会別府大学大会 2022年11月12日土曜日13:20-13:45 「障害者権利条約の実施:初回日本審査と総括所見」 長瀬修(立命館大学生存学研究所) 1.はじめに  国連の障害者権利委員会は、その第27会期中の2022年8月22日と23日にスイスの国連ジュネーブ事務所にて日本との初めての建設的対話を実施した。その後、同会期最終日の9月9日に総括所見先行未編集版、そして10月7日付で同確定版が公表されている。この建設的対話と総括所見を受けて、非常に稀なことに日本の障害者政策に社会的な関心が高まり、メディアにより大きく報道されているいる。また、初めての建設的対話や総括所見に焦点を当てた集会やセミナー障害者分野で多く企画されている。本報告では、その障害者権利条約の日本の第1回審査と総括所見について報告する。  なお、私は日本障害フォーラム(JDF)の一員として、パラレルレポート作成とジュネーブでのブリーフィングやロビーイングに参加したことを最初にお断りする。 2. 日本と障害者権利条約批准の経緯  以下、日本の障害者権利条約(以下、条約)批准の経緯を簡単に振り返る。 2006年12月 条約採択 2007年9月 条約署名 2009年9月―2012年12月  民主党政権下での障がい者制度改革推進会議による条約の国内措置推進、障害者基本法改正・障害者政策委員会設置 2013年6月 障害者差別解消法成立 2014年1月  条約批准 3. 条約と審査(検討)の根拠  「審査」と呼ばれているのは、条約において、締約国からの報告を「検討する」としている部分である。条約は「締約国による報告」に関する第35条で、まず「各締約国は、この条約に基づく義務を履行するためにとった措置及びこれらの措置によりもたらされた進歩に関する包括的な報告を、この条約が自国について効力を生じた後二年以内に国際連合事務総長を通じて委員会に提出する」と規定している。そして第36条で、「委員会は、各報告を検討する。委員会は、当該報告について、適当と認める提案及び一般的な性格を有する勧告を行うものとし、これらの提案及び一般的な性格を有する勧告を関係締約国に送付する。当該関係締約国は、委員会に対し、自国が選択する情報を提供することにより回答することができる。委員会は、この条約の実施に関連する追加の情報を当該関係締約国に要請することができる」としている。これらの規定に基づいて、障害者権利委員会は締約国が提出した報告の検討(審査)を行い、勧告である総括所見を作成、公表する。   4. 審査過程  総括所見においても示されているように、審査は狭い意味では、2022年8月22日、23日の建設的対話のみであるが、実際には、締約国による報告の提出時から開始されていると見ることができる。  以下、総括所見に至る過程を示す。なお、障害者権利委員会は委員会と略す。 2016年6月30日 締約国 第1回締約国報告提出 市民社会 事前質問事項に向けたパラレルレポート(JDFや日本弁護士連合会等9本) 2019年9月23日 委員会・市民社会 障害者権利委員会事前作業部会第12会期:カントリーブリーフィング実施(ジュネーブ) 2019年10月29日 委員会 日本に対する事前質問事項確定版公表 市民社会 総括所見に向けたパラレルレポート(JDFや日弁連等9本)提出 2021年7月15日 締約国、JDF、日弁連 事前質問事項回答案に関する政府との意見交換 2022年5月31日 締約国 事前質問事項への回答提出 2022年8月22日・23日 委員会・締約国 建設的対話実施(ジュネーブ) 2022年9月2日 委員会 総括所見採択 2022年9月9日 委員会 総括所見(先行未編修版)公表、その後10月7日付で確定版公表  このように、締約国報告に始まり、事前質問事項と政府回答を含め、建設的対話と総括所見に至る長い過程がある。そこには、パラレルレポートやブリーフィングという形での障害者組織を含む市民社会からの非常に重要な情報の提供も含まれる。建設的対話は唯一、締約国と障害者権利委員会の公開の場での肉声のやり取りがある部分であり、注目を浴びる部分ではあるが、総括所見に至る過程では一部にしか過ぎないのも事実である。   5.市民社会のプライベートブリーフィング  日本の障害者組織をはじめとする市民社会の高い関心と、日本の自由と豊かさの象徴として100名を越す障害者権利条約史上最多の市民社会代表団がジュネーブで委員会への口頭説明を建設的対話直前の2022年8月19日と22日の2回、計2時間行った。この口頭説明をプライベートブリーフィングと呼ぶ。このブリーフィングは内密という意味のプライベートであり、審査対象の日本政府関係者は出席できない。  口頭でのブリーフィングの資格を持つのは、総括所見用のパラレルレポートを提出した市民社会組織である。ブリーフィングを行ったのは、@JDF、A日弁連、B自律生活さぽーと 、C女性・子ども・障害・貧困の資料室、?インクルーシブ教育情報室、E障害児を普通学校へ全国連絡会と公教育計画学会(両団体で合同)、F国連に障害児の権利を訴える会、GTOYONAKAWAKATSUDO、H障害者政策委員会の9団体である。障害者政策委員会は独立した監視枠組みとして、ブリーフィングの機会を得た。   6.建設的対話  18名の障害者権利委員会委員と日本政府代表団との建設的対話が8月22日と23日に実施された。日本側は、31名からなる代表団を構成し、外務省、内閣府、法務省、総務省、厚生労働省、文部科学省、国土交通省から25名が日本から派遣された。6名はジュネーブ駐在の外務省職員である。団長は外務省総合外交政策局参事官である片平聡が務めた。  以下、建設的対話の経過を示す。 8月22日 午後3時―6時 締約国代表団冒頭発言:山崎和之(在ジュネーブ国際機関日本政府代表部特命全権大使・常駐代表)、片平聡(外務省総合外交政策局参事官) 国別報告者(ヨナス・ラスカス障害者権利委員会副委員長)冒頭発言 委員による第1クラスター(第1条―第10条)に関する質問 休憩 内閣府障害者政策委員会(石川准委員長)による発言 締約国からの回答 委員による第2クラスター(第11条―第20条)に関する質問 8月23日 午前10時― 午後1時 締約国からの回答 委員による第3クラスター(第21条―第33条)に関する質問 休憩 締約国からの回答 代表団締めくくり発言:本清耕在ジュネーブ国際機関日本政府代表部特命全権大使・次席常駐代表、片平聡 国別報告者(キム・ミヨン)締めくくり発言  当該国の審査で中心的な役割を果たす委員を国別報告者と呼ぶ。日本の場合は、共に障害者権利委員会副委員長であるヨナス・ラスカス(リトアニア)とキム・ミヨン(韓国)が国別報告者を務めた。国別報告者をはじめとする委員からは建設的対話において、市民社会からの情報をもとに的確な質問が多数投げかけられた。政府からは現状の法律や施策に関して、ミスリーディングだったり、木で鼻をくくるような回答も一部あったものの、おおむね無難な回答が示された。  大きな課題だったのは、外務省を団長とする代表団の構成に象徴されるように、障害者基本法を所管する内閣府の存在が希薄であり、俯瞰的で総合的な障害者政策という視点が見られなかったことである。  例外的に建設的対話らしい部分だったのは、二日目23日の冒頭で団長が前日の質問とも関連して、津久井やまゆり園事件と優生思想について触れたほか、旧優生保護法について「政府として真摯に反省、心から深くお詫びする気持ちに変わりはない」という官房長官の発言を引用した部分だった。  そして、存在感を示したのは、条約の独立した監視枠組みとして日本政府によって指定されている障害者政策委員会だった。障害者権利委員会に提出した「障害者の権利に関する条約の実施状況に係る障害者政策委員会の見解」に基づいて、@法的能力の制限(第12条)、A精神医療(第14条)、Bインクルーシブ教育(第24条)の3点に絞った鋭い発言を行った。 6.総括所見  2016年6月の報告の提出によって発動した初回の日本審査は、2022年8月の二日間の建設的対話を経て、総括所見という勧告をもたらした。   総括所見の構成は、以下の通りである。 1.イントロダクション 審査の経緯 2.肯定的側面 条約実施に関して肯定的に評価できる事項 3.主要な懸念と勧告分野 条文毎の懸念事項と勧告 4.フォローアップ 重要事項と次回の報告  日本への総括所見(CRPD/C/JPN/CO/1、2022年10月7日)は分量も多く、詳細で充実した内容となった。起草を担当した2名の国別報告者が中心となって、締約国報告に加えて、豊富な市民社会からの情報を十分に吟味、反映した成果である。  異例なのは、肯定的側面で実に17項目が取り上げられていることである。これまでの障害者権利条約の総括所見で最多の肯定的側面の記述となった。具体的には、盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約という国際条約の批准が1項目、障害者差別解消法の成立(2013年)と改正(2021年)や、電話リレーサービスに関する聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律の成立(2020年)など8項目の法的整備、障害者基本計画などの施策が8項目、それぞれ列挙されている。末尾に資料1として「障害者権利委員会による日本への総括所見概要」を添付したので、そちらも参照していただきたい。  主要な懸念事項と勧告は、懸念事項と勧告が基本的に対になっている。生命に対する権利である第10条を以下、例として取り上げる。なお、本稿での総括所見の翻訳は、政府仮訳がまだ出されていないため、機械翻訳ベースである。 生命に対する権利(第10条) 23.委員会は、次の事態の結果として障害者が死亡した事例の報告を懸念する。 (a)緩和ケアにおけるものを含め、医療処置を開始及び/又は継続する・しないに関して、障害者の意思及び希望が考慮されていないことを含む、障害者の生きる権利の保護措置の欠如。 (b) 機能障害を理由とする非自発的入院の状態での身体拘束および化学的拘束。 (c)また、精神科病院での死亡の原因や状況についての統計や独立した調査が行われていないことを懸念している。 24.委員会は、締約国に対し、障害者団体および独立した監視機構と協議して、次のことを行うよう勧告する。 (a)緩和ケアを含む治療に関して、障害者の生きる権利を明示的に認め、意思・嗜好の表明とそれに必要な支援を含むそれぞれの保護措置を確保すること。 (b)機能障害に基づくいかなる形態の非自発的入院や治療も防止し、地域サービスでの障害者への必要な支援を確保すること。 (c)精神科病院での死亡事例の原因や状況について、徹底的かつ独立した調査を実施すること。  このように懸念事項の23(a)で委員会は、障害者の生きる権利の保護措置の欠如の結果として障害者が死亡した事例の報告を懸念している。そして対応する24(a)で、委員会は治療全般、とりわけ緩和ケアに関して障害者の生命に対する権利の明示的な認知と、そのセーフガードの確保を勧告している。  この23(a)と24(a)が取り上げている生きる権利の保護措置は、他の多くの勧告事項と同様に、市民社会からのパラレルレポートに起源を持つ勧告内容である。具体的には、包括的なJDFの事前質問事項用パラレルレポート(2019年6月)の第10条(2)「尊厳死法制化」である。この情報をもとに、委員会は事前質問事項の第10条に関する質問(9a)において、「締約国(注:日本)の死の幇助に関する法令が本条約に従い,かつその一般原則を尊重していることを確保するためにとられた措置」に関する情報を日本に対して求めたという経緯がある。障害者組織をはじめとする市民社会からの情報が総括所見に大きな影響を与えた一例である。  日本への総括所見において勧告の項目数は全部で93であり、一つの条文あたりの平均的勧告項目数は3である。たとえば上記の第10条の項目数は3である。勧告の項目数が平均の3よりも多いのは、多い順に9項目の目的や定義等に関する第1−4条(総括所見では、1条から4条は一体として扱われる)、6項目の危険な状況及び人道上の緊急事態に関する11条、自立した生活及び地域社会への包容に関する第19条、教育に関する第24条、保健に関する第25条、4項目の搾取、暴力及び虐待からの自由に関する第16条と労働及び第雇用に関する第27条である。  勧告の項目数は勧告における当該条文の重要性を必ずしも示すものではない。たとえば、国内における実施及び監視に関する第33条については1項目のみだが、国内人権機関の設立という国内政治的に超重量級の勧告である。他方で、項目数は委員会としての関心の傾向を一定程度示すものとして目安とはなる。末尾の資料2「障害者権利条約総括所見(日本)条文毎の勧告項目数」も参考にしてほしい。  委員会がフォローアップにおいて明示的に緊急の対応を求めているのは、第19条(自立した生活及び地域社会への包容)に関する42段落、第24条(教育)に関する52段落である。  第19条に関する第42段落は以下の通りである。     自立した生活と地域社会への包容(第19条) 42. 自立した生活と地域社会への包摂に関する一般的意見第5号(2017年)および脱施設化ガイドライン(2022年)を参照し、委員会は締約国に強く要請する。 (a) 障害児を含む障害者の施設収容を廃止するため、予算配分を、障害者の入所施設から、障害者が地域社会で他の人と対等に自立して生活するための対策と支援に振り向けることによって、迅速な措置をとること。 (b)精神科病院に入院している障害者のすべてのケースを見直し、無期限の入院をやめ、インフォームド・コンセントを確保し、地域社会での必要な精神保健支援とともに自立した生活を育むこと。 (c)障害者が居住地および地域社会のどこで誰と暮らすかを選択する機会を持ち、グループホームを含む特定の生活形態に住むことを義務づけられないようにし、障害者が自分の生活に対して選択とコントロールを行使できるようにすること。 (d)障害者団体と協議の上、障害者の自律と完全な社会的包摂の権利の承認を含め、障害者が施設から他の人と平等な地域社会での自立生活に効果的に移行することを目指す、期限付きの目標基準(ベンチマーク)、人的・技術的・財政的資源を伴う、法的枠組みおよび国家戦略、ならびにその実施を都道府県の義務とすることを開始すること。 (e)障害者が地域で自立して生活するための支援体制を強化すること。これには、あらゆる種類の集合施設の外にある自立した、アクセス可能で安価な住宅、パーソナルアシスタンス、ユーザー主導の予算、地域内のサービスへのアクセスなどが含まれる。 (f)地域社会における支援とサービスの支給決定の既存の評価スキームを改定し、障害者の社会参加とインクルージョンにとっての社会の障壁と必要な支援の評価を含む、障害者の人権モデルに基づいたものにすること。  この6項目は約50万人の障害者の精神科病院を含む入所施設からの脱施設化、地域移行に関するもので、具体的には@障害者の施設収容を廃止するため、予算配分を地域生活支援に振り向けること、A無期限の入院を止めるために、精神科病院に入院している障害者の全ケースの見直し、B障害者がグループホームを含む特定の生活様式を義務付けられず、居住地を選択し、どこで誰と生活するかを選択する機会を持てるようにすること、C期限付きの目標期限を持ち、人的・技術的・財政的資源を伴う地域移行の法的枠組みと国家戦略を策定し、都道府県に実施義務を持たせること、D障害者が地域で自立して生活するための支援体制の強化、E地域社会における支援とサービスの支給決定の既存の評価スキームの改正を求めている。  教育(24条)に関する勧告である第52段落は次の通りである。 52.委員会は、インクルーシブ教育の権利に関する一般的意見第4号(2016年)および持続可能な開発目標4、ターゲット4.5および指標4(a) を想起し、締約国に対し、次のことを強く要請する。 (a)教育に関する国の政策、法律、行政措置の中で、分離された特別な教育をやめるために、障害のある子どものインクルーシブ教育を受ける権利を認めること。また、質の高いインクルーシブ教育に関する国家行動計画を採択し、そこに特定の目標、時間枠、十分な予算を含め、すべての障害のある生徒が、あらゆるレベルの教育において、合理的配慮と必要とする個別の支援を受けられるようにすること。 (b)すべての障害児の普通学校への通学を保障し、普通学校が障害児の入学を拒否することを許さない「拒否なし」条項と方針を打ち出し、特別支援学級関連の文部科学省通知を撤回すること。 (c)障害のあるすべての子どもに、個々の教育的要求を満たし、インクルーシブ教育を確保するための合理的配慮を保証する。 (d)インクルーシブ教育について、通常教育の教員および教員以外の教育関係者の研修を確実に行い、障害の人権モデルについての認識を高めること。 (e)点字、わかりやすい版、ろう児の手話言語教育、インクルーシブな教育環境におけるろう文化の促進、盲ろう児のインクルーシブ教育へのアクセスなど、通常の教育環境における補助的・代替的コミュニケーション様式および方法の使用を保証すること。 (f)大学入試や学習過程など、高等教育における障害のある学生の障壁に対応する、全国的な総合的政策を策定する。  教育については、分離された特別支援教育から、地域での普通学校と普通学級でのインクルーシブ教育への転換を求めるもので、@分離された特別支援教育を終えるため、障害児のインクルーシブ教育への権利を認め、インクルーシブ教育のための国家的行動計画を採択すること、A普通学校が障害児の入学を拒否できない制度を設けると共に、特別支援学級に関する文科省通知を撤回すること、B障害児への合理的配慮の確保、Cインクルーシブ教育について通常教育の教員および教員以外の教育関係者に研修実施、D通常教育環境における補助的・代替的コミュニケーション様式・方法の使用の保証、インクルーシブ教育環境でのろう文化促進、盲ろう児のインクルーシブ教育へのアクセス、E高等教育における障害学生への障壁に対応する国家的な総合的政策の策定を具体的に勧告している。  委員会が緊急に対応を求めているのは、この2つの事項、すなわち@障害者の地域生活の実現と、A地域でのインクルーシブ教育への転換である。 7.おわりに  障害者権利条約は批准前に成立した障害者差別解消法をはじめ、日本の障害者政策に大きな影響を与えている。その条約の初めての審査を受けて総括所見が公表されたことによって、日本の障害者権利条約の実施は新たな段階を迎えた。この勧告は、日本の障害者権利条約の実施のみならず、障害者の人権保障と障害者政策の進展において大きな節目である。市民社会からの充実した情報を活かして丁寧に作成され、日本の障害者政策の課題の多くを的確に指摘している総括所見を、日本の障害者の人権保護の促進にどのように活かすことができるのかが問われている。 *参考文献 JDF.(2017)事前質問事項用パラレルレポート https://www.normanet.ne.jp/~jdf/data.html#page_top2 2022年10月20日アクセス。 **本研究はJSPS科研費「東アジアにおける障害者権利条約の実施と市民社会」18K01981の助成を受けたものである。 資料@「障害者権利委員会による日本への総括所見概要」(CRPD/C/JPN/CO/1:2022年10月7日) 〇肯定的側面 <国際条約の批准> 1.盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約の批准(2018年) <法的整備> 2.障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法 (2022年) 3.害者差別解消法(2013年)及びその改正(2021年:公共及び民間事業者団体に障害者への合理的配慮提供の義務化) 4.聴覚障害者の電話利用の円滑化に関する法律(2020年) 5.旧優生保護法に基づく優生手術を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律(2019年) 6.高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)の2018年、2020年改正、アクセシビリティ基準の推進 7.視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(2019年)。 8.ユニバーサル社会の実現に向けた諸施策の総合的かつ一体的な推進に関する法律(2018年) 9.障害者による文化芸術活動の推進に関する法律(2018年法律) 10.障害者雇用促進法の2013年の改正により、障害者の法定雇用義務の対象を精神障害者にも拡大し、合理的配慮の確保を義務づけたこと <その他の施策> 11. 裁判所における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領 12. 第4次障害者基本計画(2018年) 13. 障害者差別解消法基本方針(2016年) 14. みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年) 15. 改正障害者雇用促進法「障害者差別禁止指針」と「合理的配慮指針」(2015年)。 16. 条約の実施の監視を担当する機関として、障害者政策委員会の設置 17. 都道府県や市町村の障害者計画 〇勧告 A. 一般原則と義務(第1−4条) 1.国内の法律と政策の条約との調和 2.障害認定をはじめとする医学モデルの要素を取り除くための法律と規定の見直し 3.侮辱的な表現と欠格条項などの法的制限の撤廃 4.条約の正確な日本語への翻訳 5.地域格差是正のための立法・予算措置 6.国と地方レベルでの障害者組織の意思決定過程への参加確保 7.優生思想と闘うために、津久井やまゆり園事件の見直し。 8.障害者と関係するすべての専門職(司法専門家、政治家、教員を含む)能力開発プログラムの提供 9.選択的議定書の批准と第23条4項の解釈宣言(出入国管理法に基づく親子分離)撤回 B. 特定の権利(第5−30条) 平等及び無差別(第5条) 10.障害者差別解消法を見直し、複合・交差性差別や合理的配慮の否定を禁止すること 11.民間・公的領域を含むすべての生活分野での合理的配慮の確保 12.障害者差別被害者のための効果的なメカニズムの確立、被害者への救済の提供と、加害者への制裁 障害のある女子(第6条) 13.ジェンダー(男女共同参画)政策において、障害女性の平等確保と、複合・交差的差別の防止および障害者政策におけるジェンダーの視点の主流化(第4次障害者基本計画と第5次男女共同参画基本計画) 14.障害のある女性のエンパワメント 障害のある児童(第7条) 15.通常の保育の利用を含め、障害児の社会的包摂のための法律の見直し(母子保健法) 16.障害児の意思表明権の確保(児童福祉法) 17.障害児への体罰禁止と障害児への虐待と暴力の防止措置 意識の向上(第8条) 18.障害者への否定的な固定観念や偏見、有害な慣行をなくすための国家戦略の採択。 19.メディア、一般市民、障害者の家族対象に、障害者の権利に関する啓発プログラムの開発 施設及びサービス等の利用の容易さ(第9条) 20.行動計画およびアクセシビリティ戦略の実施(特に建物、交通、情報通信等)。 21.専門家(建築家、デザイナー、エンジニア等)向けアクセシビリティ基準能力開発プログラムの強化。 生命に対する権利(第10条) 22.治療全般、とりわけ緩和ケアに関して障害者の生命に対する権利の明示的な認知と、そのセーフガードの確保。 23.非自発的入院や治療の防止と地域サービスでの障害者への必要な支援の確保。 24.精神科病院での死亡事例の原因や状況に関する独立した調査。 危険な状況及び人道上の緊急事態(第11条) 25. 災害対策基本法を改正し、プライバシーと、合理的配慮の否定を含む非差別の権利の強化。 26.避難所や仮設住宅のアクセシビリティ確保。 27. 強靭なコミュニティの構築を障害者と家族の防災・減災計画への参加によって推進。 28.危険な状況や人道的緊急事態においてアクセシブルな情報を障害者が受け取れること。 29. 防災計画・戦略および気候変動に関する政策の障害者ニーズへの対応。 30.新型コロナウイルス感染症への対応において障害を主流化すること。 法律の前にひとしく認められる権利(第12条) 31.代替的意思決定制度の廃止を視野に入れた民法改正。 32.支援付き意思決定制度の確立。 司法手続の利用の機会(第13条) 33.司法手続に障害者が参加する権利を制限する法的規定の廃止 34.すべての司法手続において、手続上および年齢に応じた配慮を保証すること 35.裁判所、司法・行政機関の物理的アクセシビリティの確保 身体の自由及び安全(第14条) 36.障害者の非自発的入院による自由の剥奪を認める法的規定の廃止 37.同意のない精神科治療を正当化する法的条項を廃止し、強制的治療をなくすための監視機構設置 38.すべての障害者の自由意志に基づくインフォームド・コンセントの権利を保護するためのセーフガード確保 拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由(第15条) 39.精神障害者の強制的治療を正当化する法的規定の廃止(医療観察法) 40.精神医療における強制的治療の不当な治療の防止と報告のための監視機構の設置 41.精神科病院での残虐な行為を通報するための利用しやすい仕組みの設置、被害者のための効果的な救済措置の確立、加害者の起訴と処罰の確保。 搾取、暴力及び虐待からの自由(第16条) 42.障害女性に対する性的暴力と家庭内暴力に関する実態調査の実施、障害児と障害女性に対する暴力と闘うための対策強化 43.障害者虐待防止法の強化と障害者に対する暴力・虐待の調査、その救済方策の確立 44.暴力被害者支援サービス、支援サービスに関する情報、通報メカニズムへのアクセスを確保し、専門能力開発プログラムの司法・行政担当者に提供するための戦略策定 45.「性犯罪に係る刑事法検討会」(法務省)への障害者組織代表の参加確保。 個人をそのままの状態で保護すること(第17条) 46.「旧優生保護法(1948〜1996年)に基づく優生手術等受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」を改正し、請求期限を撤廃し、全被害者を救済すること。 47.障害女性に対する子宮摘出含む強制不妊手術および強制中絶を明示的に禁止し、医療および外科的処置についてインフォームド・コンセントを確保すること。 移動の自由及び国籍についての権利(第18条) 48.精神障害者、知的障害者の入国拒否を認めている出入国管理及び難民認定法改正 49.入国管理局における合理的配慮の提供と情報へのアクセス(手話通訳を含む)の確保 自立した生活及び地域社会への包容(第19条) 50.障害者の施設収容を廃止するため、予算配分を地域生活支援に振り向けること。 51.無期限の入院を止めるために、精神科病院に入院している障害者の全ケースの見直し 52.障害者がグループホームを含む特定の生活様式を義務付けられず、居住地を選択し、どこで誰と生活するかを選択する機会を持てるようにすること 53.期限付きの目標期限を持ち、人的・技術的・財政的資源を伴う地域移行の法的枠組みと国家戦略を策定し、都道府県に実施義務を持たせること 54.障害者が地域で自立して生活するための支援体制の強化 55. 地域社会における支援とサービスの支給決定の既存の評価スキームの改定 個人の移動を容易にすること(第20条) 56.障害者総合支援法の制限を撤廃し、全地域における障害者の自由な個人的移動の確保 57. 必要な移動支援機器・技術が安価であることを保証するための努力を強化すること。 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会(第21条) 58.法的拘束力のある情報通信基準の策定による情報アクセシビリティの確保 59.アクセシブルなコミュニケーション様式の開発、促進、利用のための十分な予算配分 60.日本手話の公用語としての認定と手話通訳者の研修 プライバシーの尊重(第22条) 61.障害者のためのデータ保護に関する法律の強化(マイナンバー法と個人情報保護法) 家庭及び家族の尊重(第23条) 62.精神障害を離婚の条件とする民法第770条第1項第4号の削除 63.障害児の家族生活への権利を認め、その権利のために適切な支援を提供すること 教育(第24条) 64.分離された特別支援教育を終えるため、障害児のインクルーシブ教育への権利を認め、インクルーシブ教育のための国家的行動計画を採択すること 65.普通学校が障害児の入学を拒否できない制度を設けると共に、特別支援学級に関する文科省通知を撤回すること 66.障害児への合理的配慮の確保 67. インクルーシブ教育について通常教育の教員および教員以外の教育関係者に研修実施 68.通常教育環境における補助的・代替的コミュニケーション様式・方法の使用の保証、インクルーシブ教育環境でのろう文化促進、盲ろう児のインクルーシブ教育へのアクセス 69. 高等教育における障害学生への障壁に対応する国家的な総合的政策の策定 健康(第25条) 70. すべての障害者のために質の高い、ジェンダーに配慮した医療サービスを確保すること 71. 保健サービスに関して、障害者にアクセシブルな様式で情報提供を保証すること 72. 医療従事者の養成・研修に障害の人権モデルを組み入れること 73. 強制のない地域ベースの精神保健支援を開発し、精神保健医療を一般医療から分離する制度を解体するために必要な立法措置および政策措置を採用すること。 74. 年齢に応じた性と生殖に関する保健サービスおよび総合的なセクシュアリティ教育 75. 本人の負担能力に応じた医療費助成の仕組みの確立と、すべての障害者への拡大 ハビリテーション(適応のための技術の習得)及びリハビリテーション(第26条) 76.包括的で分野横断的なリハビリテーションサービスの全地域での確保 77.リハビリテーション計画の拡大とすべての障害者が利用できるようにすること 労働及び雇用(第27条) 78.シェルタードワークショップと雇用関連福祉サービスから通常労働市場への移行推進 79.職場の物理的環境のアクセシビリティ確保と雇用者への個別支援と合理的配慮の研修 80.障害者雇用率制度の強化と監視機構の確立(障害者雇用促進法) 81.職場でのパーソナルアシスタンスの利用を制限する法的規定の撤廃(重度訪問介護) 相当な生活水準及び社会的保障(第28条) 82.適切な生活水準を保証し、障害関連追加費用を賄うため社会的保障の制度の強化 83.障害者団体と協議の上、障害年金の額に関する規定を見直すこと。 84.民間・公共住宅対象の法的拘束力のあるアクセシビリティ基準の確立と実施保証 政治的及び公的活動への参加(第29条) 85.公職選挙法を改正し、投票手続き、施設、資料のアクセシビリティを確保すること 86.障害女性を含む障害者の政治、行政への参加の確保(重度訪問介護) 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加(第30条) 87.観光地や娯楽施設でのアクセシビリティ確保に向けた取り組みの強化 88.テレビ番組や文化活動のアクセシビリティの確保とマラケシュ条約実施の措置強化 89.障害者のスポーツ活動へのアクセス確保 C. 特定の義務(第31?33条) 統計及び資料の収集(第31条) 90.諸要素によって細分化した障害者に関する資料収集システムとデータベースの整備 国際協力(第32条) 91.SDGsの実施と監視における障害者の権利の主流化 92.「アジア太平洋障害者の十年」と「仁川戦略」の実施に向けた協力の強化 国内における実施及び監視(第33条) 93.国内人権機関の設立と、同機関の枠組みにおける障害者政策委員会の強化 ○フォローアップ  緊急に対応措置を求めるのは、自立した生活と地域社会への包容(第19条)とインクルーシブ教育(第24条)に関する勧告である。  次回の定期報告について委員会は、締約国に対し、2028年2月20日までに第2、第3および第4の定期報告を合わせて提出し、そこに本総括所見でなされた勧告の実施に関する情報を含めるよう要請する。委員会はまた、締約国に対し、委員会の簡略化された報告手続きの下で上記の報告を提出することを検討するよう要請する。この手続きでは、締約国の報告期限の少なくとも1年前に委員会が事前質問事項を作成する。これに対する締約国の回答は、その報告となる。 資料2「障害者権利条約総括所見(日本)条文毎の勧告項目数」 (総括所見のスタイルに従って、1条から4条までは1条文として計算) 条文 勧告数 条文 勧告数 条文 勧告数 1−4 9 14 3 24 6 5 3 15 3 25 6 6 2 16 4 26 2 7 3 17 2 27 4 8 2 18 2 28 3 9 2 19 6 29 2 10 3 20 2 30 3 11 6 21 3 31 1 12 3 22 1 32 2 13 3 23 2 33 1 1