2022年度 第7回日本障害法学会研究大会(2022年11月12日 別府大学)  コメント DPI日本会議 崔 栄繁 1、川島聡先生のご報告へのコメント (1)差別と平等の概念に関連して ・一般的な「異なる扱い」を意味する「差別」と、一般的には同じ扱いを意味する「平等(「同一処遇」と「異別処遇」)の関係を(本質部分に関して)等しく扱うべきを扱わないという「異なる扱い」で説明できるのは非常に興味深い。 (2)「事柄の本質部分(レバラント)と「非本質部分」(イレバラント)」の判断(注釈15)について ・関心の高いところ。「本質部分」が問題になるため。 ・例えば通常学級で学んでいる障害のある児童生徒について授業における配慮を求めると「教育的観点」で可否が決まってしまう事例 ・本質的部分と非本質的部分の発見装置としての合理的配慮。可能性と限界は?(入所施設や精神科病院からの地域移行など)。 (3)「考慮・非考慮による差別の事例」  ・「直接差別と考えられようが合理的配慮の否定といえようが」   →障害差別の認定の上で興味深い。VFC事件の通報者は「直接差別」として通報?(cf.ユンゲリン事件)  ・例えばDPIに寄せられた事例 「あるろう者の団体が、電話リレーサービスを利用して手話通訳者を介して、A市が運営する宿泊施設に電話をし、宿泊の打診をしたところ、担当者に研修内容や人数、聞こえる人の参加を聞かれました。「いつもは、ろう者100人ほどで、聞こえる人はいない」と伝えるとその施設の人から「聴覚障害者には安全面で対応できないため、受け入れられません。専用の施設を利用してください」と言われました。仕方がないので別のS市内の民間のホテルを予約しました。そのホテルは全く問題がありませんでした。」  → シンプルに考えれば聴覚障害を理由にした直接差別(考慮による差別モデル)だが、筆談などの合理的配慮がされれば利用可能。 (4)その他  ・これら個人通報に基づく障害者権利委員会の見解の各国の受容は?   (また、例えばスペインの事例:ダウン症の子どもを親の意思に反して特別教育センターに措置した事案について、障害者権利条約選択議定書の個人通報制度に基づいて、条約違反であると決定(2020年8月28日)) https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=26263&LangID=E 2,長瀬修先生へのコメント (1)所感  ・2002年、ニューヨークの国連本部で障害者権利条約の策定について、最初の「障害者の権利及び尊厳を促進・保護するための包括的・総合的な国際条約に関する諸提案について検討するための特別委員会」(以下、特別委員会)が8回開催され、2006年に同条約が国連で採択された。 ・筆者は2002年の第1回特別委員会から7回特別委員会に参加し、条約交渉を見守ってきた。そのころからご一緒しているのが、長瀬さん、川島さん。  ・2004年には障害関係13の全国団体のネットワークである日本障害フォーラムとして条約交渉に参加。条約交渉が始まった2002年からちょうど20年となる2022年8月に日本政府との最初の建設的対話が行われ、9月に総括所見がだされたことは感慨深い。 (2)建設的対話と総括所見(JDFでの活動)  ・長瀬さんと崔はJDFでパラレルレポート特別委員会の委員としてレポート作成に参加 ・JDFとして3つのレポートを委員会に提出。条文ごとに担当者とチームを定め、40回以上の委員会開催、それ以外のチームでの数多くの議論を経て作成。 ・レポートの内容の多くが総括所見の内容に反映されたと評価可能。 ・長瀬さんは報告制度のプロセス、障害者権利委員会や国連事務局の動き、中華民国(台湾)の障害者権利条約モニタリング委員会の委員長を務められるなどのご経験・ご知見から、適切な情報提供等々、委員へのインプットなど大きな役割を果たされた。 ・崔は12条、13条、18条、19条、24条を担当。 (3)総括所見と今後の課題   @主な個別課題  ・手話を言語として承認、それに基づく法制度の確立(1〜4条、21条)  ・差別禁止法制(障害者差別解消法、障害者雇用促進法など)の課題(2条、5条)  ・障害女性の課題(実態の調査、複合差別)(6条)  ・成年後見制度など法的能力に関する問題(12条)  ・精神障碍者の強制入院・強制医療の問題(14条など)  ・施設や病院からの地域移行、地域における自立した生活の課題(19条)  ・インクルーシブ教育(24条)  ・雇用・労働(27条)  ・三権から独立した国内人権機関の設置(33条)  ・その他、選択議定書の批准    A市民社会の課題  ・司法や行政への働きかけ  ・女性や子ども、LGBTなど、他の市民社会グループとの連携の強化し、障害問題のメインストリーム化 ・諸外国の総括所見の受容例、判例を蓄積し、政府や議会に対して、国内での実施が可能な形での政策提言の力をつけながら、国連勧告の受容を働きかけ続けること。 ・障害者政策の実施と監視について、障害者政策委員会の動きを強化。 以上