「成年後見法と障害者権利条約」 中央大学法学部教授・大学院法学研究科委員長 新井誠 T 成年後見制度の現状 T−1 成年後見法の五大ポイント @任意後見制度の導入  →任意後見と法定後見、「任意後見制度優先の原則」 A補助制度の創設    B身上配慮義務、監督強化、後見人制度の拡充 C成年後見登記の新設 D区市町村長の申立権付与 → 「成年後見の社会化」 T−2 運用実績(2015年1月〜12月) @成年後見制度 191,335件 A後見     152,681件 B保佐      27,665件 C補助       8,754件 D任意後見     2,245件 T−3 分析 @利用全般の不振 → 申立件数の減少 A任意後見契約締結率の低迷 B後見の偏重 C補助の低迷 T−4 国際比較 @日本 人口 1億2,800万人     成年後見 約19万件     (推定対象者数約600万人) Aドイツ 人口 8,200万人      法定後見 約130万件      任意後見 約160万件(登録)、約160万件(非登録) B国際的スタンダード  総人口の少なくとも1パーセント(近時2%) C課題  日本 = 利用促進  ドイツ = 利用抑制 U 障害者権利条約 2006年12月13日国際連合「障害者権利条約」 U−1 パラダイム転換 @統合 integration → 包摂とエンパワーメント inclusion A世話の対象 → 平等な権利を享受できる主体(自己決定権を含む) 障害の医学モデル medical model of disabilities → 障害の社会モデル social model of disabilities      U−2 成年後見に関する特別規定 条約12条「障害者は生活のあらゆる側面において他の者との平等を基礎として法的能力を享受する」 U−3 条約と自己決定権 伝統的な考え方 = 代理意思決定 substituted decision making 条約の考え方  = 支援付き意思決定 supported decision making U−4 条約12条をめぐる解釈 @学説・実務の対立 A支援付き意思決定のみ肯定 B代理意思決定の全面的否定 C代理意思決定の部分的許容 V 障害者権利条約への対応 V−1 条約と障害者権利委員会 障害者権利委員会(条約34条以下) 締約国の報告 → 委員会の見解・勧告「代理意思決定の全面的否定・支援付き意思決定のみ許容」 委員会の構成と考え方 V−2 国際的な対応 官民による協調(国際的ネットワーク) = 「横浜宣言」 条約(我が国も批准) = 法的拘束力あり 見解・勧告 = 法的拘束力なし V―3 条約が要請する成年後見制度 任意後見優先 自動的かつ全面的な代理意思決定は禁止 → 「必要最低限の介入の原則」 代理意思決定(法定代理)は一定の条件の下でのみ許容 → 権利・意思・選好の尊重、利益相反禁止、適合性、期間限定(条約12条4項) V−4 我が国の対応 後見類型@自動的・画一的能力制限     A期間の限定なし     B多数の欠格事由     C医療行為の同意権なし → 条約違反 保佐類型・補助類型 → 二種類存置、一元化(利用促進法11条7項) 任意後見の促進(利用促進法11条5項) → 信託制度の活用 基本方針の着実な履行 → 条約に適合 W 利用促進法の意義 「横浜宣言」における「日本の課題」 公的支援システムの創設(条約12条3項) 利用促進法の基本計画・体制 @成年後見制度利用促進基本計画 A成年後見制度利用促進会議 B成年後見制度利用促進委員会 ↓ 国等の責務 市町村の措置 都道府県の措置 裁判所も含めた官と民との支援ネットワークの構築(利用促進法8条)