障害法学会 第1回研究総会 2016年12月10日 神奈川大学 障害を理由とする雇用差別禁止の法的課題 浅倉むつ子(早稲田大学) T 雇用差別禁止法制の全般的現状 1 禁止されるべき差別事由の3類型 ・非選択的な人的属性 ・選択の自由が保障されるべき人的属性 ・雇用分野における労働契約的属性 2 現行法の状況 ・社会的差別禁止法制 ・非正規労働の規制(契約的属性による差別禁止) U 障害をめぐる差別禁止法制と雇用 1 障害者基本法(2011年改正) ・差別禁止規定(4条1項) ・社会的障壁の除去の実施という合理配慮(4条2項) 2 障害者差別解消法(2013年制定) ・障害を理由とする差別禁止(7条1項、8条1項) ・合理的配慮(7条1項、8条2項) ・行政機関・事業者が事業主としての立場で行なう差別 →障害者雇用促進法による (13 条)。 3 障害者雇用促進法(2013年改正) ・禁止される差別(34条、35条) ・合理的配慮提供義務 (36条の2、36条の3) ・紛争解決の援助仕組み。 V 障害者雇用促進法の意義と課題 1 障害者雇用をめぐる2つのアプローチ ・世界の動向は「雇用義務アプローチ」から「差別禁止アプローチ」へ。 ・日本は「差別禁止アプローチ」と「雇用義務アプローチ」を併用(フランス・ ドイツも)。 ・障害者を特別に取り扱う「雇用義務」は 、差別の例外としてのポジティブ・アクション(暫定的な優遇)としての位置づけに。 2 禁止される差別概念――「直接差別」のみ禁止という特色 ・先進国の障害関連法は多様な差別概念を採用。 ・内閣府「障害者政策委員会差別禁止部会」報告書(2012年9月14 日)=「不均等待遇」と「合理的配慮の不提供」。 ・改正障害者雇用促進法における「差別」は「障害者であることを理由と」する差別(35 条)=「直接差別」(「差別禁止指針」第2)。 ・間接差別禁止規定を設けなかったことはどのよう意味もつのか? 3 差別と合理的配慮義務不履行の関係性 ・障害者雇用促進法は「合理的配慮の不提供」を「障害を理由とする差別」とは構成していない。 ・合理的配慮の不提供を差別として禁止することと合理的配慮の提供を義務づけることは 、効果は同じか? ・直接差別でないかぎり合理的配慮の提供義務違反の問題になる。合理的配慮の不提供はどのような法的効果をもたらすのだろうか。 4 差別禁止規定違反に対する法的効果について (1)私法的効力 ・障害者雇用促進法は民事的効力を明示的に規定していない。 ・紛争解決の実をあげるためには、民事的な実効性のある条文、とくに労基法13 条のような補充的効力をもつ規定が必要。 ・現在では、差別禁止規定に反する場合の私法的効力について、民法の一般条項を通じて効力が生じる。 ・「合理的配慮義務」には「契約上の職務の変更」も入るのか。 *片山組事件・最高裁1小判1998年4月9日・労判 736号15頁、東海旅客鉄道事件・大阪地判1999年10月4日・労判771号25 頁、阪神バス事件・神戸地裁尼崎支決2012年4月9日・労判1054号38頁。 ・日本史教師としての地位確認請求が否定されたことを どう考えるべきか。 *学校法人須磨園事件・神戸地裁2016年5月26日判決 。 (2)公法的効力 ・わが国の行政指導=均等法モデル ・紛争解決サービスについて。均等法にはある企業名公表制度は、障害者雇用促進法にはない。このようシステムで「合理的配慮の不提供 」に対応できるか? W 障害差別における残された問題 1 雇用率制度 ・ポジティブ・アクションという評価に堪えるものなっているのか。 ・障害者法定雇用率の算定は適切に行われているか。 ・重度障害者のダブルカウント制度の合理性いかん 。 2 特例子会社 ・特例子会社の増大とそこで働く障害者の増加は、一般企業における障害者処遇の貧困性と裏腹の関係。 3 最低賃金制度の特例 ・最低賃金制度の減額特例(最低賃金法7条1号)について、労働能率の評価測定に関する明確なルールはない。減額申請が労働能率の計測にそって正しくなされているかどうかのモニタリングもない。申請件数と許可件数の値はほぼ同じ。 4 通勤支援 ・障害者雇用促進法「指針」の合理的配慮の提供に「通勤支援」は含まれていない。では、福祉的支援として行われているか? 【参考文献】 浅倉むつ子(2013)「障害差別禁止をめぐる立法課題−雇用分野中心に」『日本社会と市民法学』(日本評論社、2013年) 浅倉むつ子(2014)「改正障害者雇用促進法に基づく差別禁止」部落解放研究201号 池原毅和(2013)「合理的配慮義務と差別禁止法」労働法律旬報1794号 伊藤修毅(2012)「障害者雇用における特例子会社制度の現代的課題」立命館産業社会論集47巻4号 川島聡(2012)「英国平等法における障害差別禁止と日本への示唆」大原社会問題研究所雑誌641号 川島聡=飯野由利子=西倉美季=星加良司(2016)『合理的配慮』(有斐閣) 小西啓文(2009)「日本における障害者雇用にかかる裁判例の検討」季刊労働法225号 小西啓文(2011)「ドイツ障害者雇用政策における合理的配慮の展開」季刊労働法235号 小西啓文(2015)「障害者雇用法制における差別禁止アプローチのインパクト」日本社会保障法学会誌30号 障害者差別解消法解説編集委員会(2014)『概説 障害者差別解消法』(法律文化社) 富永晃一(2014)「改正障害者雇用促進法の障害者差別禁止と合理的配慮提供義務」論究ジュリスト8号 内閣府障害者政策委員会(2012)「『障害を理由とする差別の禁止に関する法制』ついて差別禁止部会の意見 ) 中川純(2011)「障害者差別禁止法の法的性質と現実的機能――救済と実効性確保の観点から」日本労働法学会誌118号 中川純(2013)「障害者雇用促進法の差別禁止条項における『障害者』の概念」季刊労働法243号 永野仁美(2013)『障害者の雇用と所得保障』(信山社) 永野仁美(2014)「障害者政策の動向と課題」日本労働研究雑誌646号 永野仁美=長谷川珠子=富永晃一編(2016)『詳説 障害者雇用促進法』(弘文堂) 野村茂樹=池原毅和編(2016)『Q&A 障害者差別解消法』(生活書院) 長谷川聡(2009)「イギリス障害者差別禁止法の差別概念の特徴」季刊労働法225号 長谷川聡(2013)「障害を理由とする雇用差別禁止の実効性」季刊労働法243号 長谷川珠子(2008)「日本における障害を理由とする雇用差別禁止法制定の可能性」日本労働研究雑誌571号 長谷川珠子(2011)「障害者差別禁止法における差別概念――合理的配慮の位置付け」日本労働法学会誌118号 長谷川珠子(2013)「障害者雇用促進法における『障害者差別』と『合理的配慮』」季刊労働法243号 長谷川珠子(2014)「日本における『合理的配慮』の位置づけ」日本労働研究雑誌646号 畑井清驕i2008)「障害を持つアメリカ人法の差別禁止法としての特徴」日本労働研究雑誌578号 畑井清隆(2011)「障害者差別禁止法における差別禁止事由および保護対象者」日本労働法学会誌118号 福祉的就労分野における労働法適用に関する研究会(2009)『福祉的就労分野における労働法適用に関する研究会報告書』((財)日本障害者リハビテーション協会)