第4回日本障害法学会研究大会 福祉・刑事司法と障害法の課題 司法(障害者)福祉に関する障害法の視点 2019年11月16日 弁護士 池原毅和 1 マクロの視点 (1)障害法に隣接する「司法(障害者)福祉」と「治療的司法」  a.司法福祉学:「司法を通じて福祉課題の解決の道を探る学会」、「『法と臨床』との豊かな協同によって問題解決を前進させる道の探求を着実に進めていこうとしています」(同学会ホームページ)  b.治療的司法:「治療的司法という言葉は英語のtherapeutic justiceの訳 語ですが、刑事司法制度について犯罪を犯した人に対して『刑罰を与えるプロセス』と見るのではなく、犯罪を犯した人が抱える『問題の解決を導き、結果的に再犯防止のプロセス』と捉えようという考え方、すなわち治療法学(therapeutic jurisprudence)に基づく司法制度を指します」(治療的司法研究センターホームページ) (2)視点 @刑事司法の医療・福祉への浸潤(Blurring: “Mad or Bad?”)の影響  再犯防止を目指す刑事司法による医療福祉の植民地化  ?基本原理の曖昧化    手続的厳格性vs即応臨機応変性   無罪推定vs有病推定   社会の利益vs本人の利益、御為ごかしのパターナリズム(Pretextual Paternalism:危険性要件の緩和と支援名目の監視の永続化 )  ?逸脱の医療福祉化と医療福祉の刑事化   不利益処分の利益処分化   手続的厳格性の弛緩と処分効果の永続化   福祉従事者の防犯体制への取り込み   再犯防止のための医療福祉技術の開発と流用   再犯防止ニーズに基づく内心と私的領域への介入 A刑事司法内のParallel Track化  *教育、労働における特殊・保護路線の轍:法制度によるSegregationと人の生き方の枠付け  *ダブル・ラベリングの危険性 2 ミクロの視点 (1)Integrityの危殆化  a.一般医療福祉の権力構造と刑事対象化による権力構造(Double Control)  b.精神・心理構造の改造(Psychotechnology)   再犯防止推進法3条3項 再犯の防止等に関する施策は、犯罪をした者等が、犯罪の責任等を自覚すること及び被害者等の心情を理解すること並びに自ら社会復帰のために努力することが、再犯の防止等に重要であるとの認識の下に、講ぜられるものとする。 (2)社会モデルに基づく問題の把握と解決の必要性  宍倉論文指摘のStep 1、Step 2の改革が刑事司法の枠組みで可能か  スライド4:発達障害者 ≠ 犯罪者・非行少年。素質的要因と環境的要因の相互作用による二次障害として非行へ至る。  スライド10:障害と不適切環境の相互作用⇒二次障害としての非行。「居場所」がないことから、非行性が進んでいない場合でも少年院等に入所せざるをえないケースも。@発達障害に基づく認知機能の障害の療育、A二次障害である反社会的行動の矯正教育、B居場所づくり 3 ダイバージョンの変容    ラベリング回避(刑事司法の逆機能の回避)の観点からは、できるだけ早期に刑事的色彩のない一般社会に戻すことが重要だが、入口支援、出口支援は刑事的マーキング(逆機能)を永続させてしまうことにならないか。  青木論文:「被疑者に障害や認知症などの疾病が疑われる場合において、起訴されれば確実に刑事処分が見込まれるケースにつき、刑事処分によるのではなく、治療やケア、社会生活の支援を早期に構築し、地域での更生を支援すること。」    Step 1、Step 2(一般の福祉)が充実していれば、刑事司法は対象者の後を追い続けずに、あっさり手放せばよいはずだが、新自由主義のもとで、Step 1、Step 2が掘り崩されてきたのではないか。司法(障害者)福祉、治療的司法はその批判力を持ちうるか。